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名古屋高等裁判所 昭和41年(ネ)849号 判決 1968年3月11日

控訴人(原告)

長屋寛一

ほか一名

被控訴人(被告)

岐阜トヨタ自動車株式会社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人ら代理人は「原判決中被控訴人に関する部分を取消す。被控訴人は控訴人寛一に対し金八六四、〇〇〇円、同す江のに対し金八六四、〇〇〇円、およびこれらに対する昭和四〇年一月二九日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および立証関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示と同一であるからこれをここに引用する。

(被控訴代理人において甲号各証の成立を認めた。)

第一控訴人ら代理人の陳述

被控訴会社が訴外東海タイムス社所有の自動車を修理したのは、被控訴会社の社員がその営業活動中訴外東海タイムス社の自動車に追突接触して損害を与えた賠償方法として修理したもので、無償行為と云うことはできず、右修理中の代車提供行為も無償行為とは云えない。他面被控訴会社は自動車の販売修理を目的とする営利会社である。およそ自動車の販売並びに修理を業とする者が、他人の自動車を修理中進んで代車を提供し、これを利用せしめ便益を供する行為は、業務の延長たるサービスであつて附属的商行為である。かかる場合は自賠法第三条に云う「自己のため自動車を運行の用に供する者」に該るものと云うべきである。

第二被控訴代理人の陳述

一、被控訴会社の修理行為は損害賠償の方法であり、損害の填補のためになされたものに他ならない。とすれば損害填補のための右修理行為が有償行為であるということはありえない。

二、自動車の販売並びに修理を業とする者が、他人の自動車を修理中進んで代車を提供しこれを利用せしめ、その便益に供する行為が一般的に附属的商行為と解し得られるとしても、本件においては、被控訴会社が自己の惹起した自動車事故から生じた損害を賠償する一方法として代車を提供したものであるから、右代車提供行為自体は本来の業務に関係のないものである。

三、運行支配の有無について。

運行支配とは、当該車両につき所有権、貸借権等の使用権あるいは事実上支配して自由に使用できる状況にあることを指称するが、本件の場合、被控訴会社が訴外東海タイムス社に代車を提供したとは云え、右代車の使用は全く訴外東海タイムス社の独自の指示と計画に従い行われるという約束であつたから、被控訴会社としてはその返還を受けるまで右代車を一切使用することができない状態におかれていたのである。のみならず、当時運転者である訴外古田英三は訴外東海タイムス社の社長である訴外河村久市から右代車の使用につき夜間の使用を禁ずる旨一般的指示を受けていたにも拘らず、事故当日訴外社の仕事が一切終了後右訴外社に無断でしかも私用の目的で右代車を運転したものである。従つて、被控訴会社は右代車を支配することは全く不可能であつたのである。

四、代車の貸与行為は訴外東海タイムス社の受けた損害の填補のためであつて、被控訴会社には右代車の運行によつて取得しうる利益(報償利益)はない。すなわち、右代車の運行と被控訴会社の業務執行との間には、その運行によつて利益(報償利益)を得るという関係がないのみならず、右代車の運行は訴外東海タイムス社固有の目的に基づいて行われているのであるから、被控訴会社の業務の執行とは無関係である。

第三立証関係〔略〕

理由

本件自動車が被控訴会社の所有であること、訴外東海タイムス社所有の自動車の修理を被控訴会社が引受けて、これを完了するまでの間、右東海タイムス社に本件自動車を貸与し、これを使用させていたところ、東海タイムス社の社員古田英三がこれを運転中本件事故を惹起したことは当事者間に争いがなく、被控訴会社が自動車の販売、修理を目的とする営利会社であることは被控訴人の明かに争わないところである。

右事実と〔証拠略〕を総合すれば、従来被控訴会社が営業として自動車の修理をする際顧客に右修理期間中代車を提供して使用せしめる例がなかつたこと、被控訴会社が本件自動車を貸与するに至つたのは、昭和三八年一一月二日被控訴会社の社員が同社所有の自動車をもつて前記東海タイムス社所有の自動車に追突しこれに損傷を与えたので、それに対する損害賠償の方法として、被控訴会社が無償で右損傷車の修理を引受けると共に右修理完了までの間東海タイムス社に代車を提供することになり、同年一一月四日本件自動車を東海タイムス社に無償で貸与したものであること、貸与中右自動車の管理使用の一切が東海タイムス社の自由に委かされていたことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定の事実よりすれば、被控訴会社は本件自動車の所有者ではあるが、前記事情からこれを東海タイムス社に貸与することにより、貸与期間中その管理、支配の権限を同社に委かせていたもので、その間被控訴会社の本件自動車に対する支配は排除されていたものと謂うべく、しかも前記のごとく損害の填補のため東海タイムス社に本件自動車を無償で貸与していたのであるから、右自動車の運行の利益はすべて東海タイムス社に帰属し、被控訴会社に帰属するものとは云えない。このように本件自動車の運行支配とその運行利益のいずれもが被控訴会社に属すると云い得ない場合においては、被控訴会社は本件自動車を自己のため運行の用に供する者と云うことはできない。

なお、控訴人らは、本件の代車提供行為は被控訴会社の附属的商行為と謂うべきものであると主張するが、前認定のとおり被控訴会社には従来他人の自動車を修理する際、サービスとして代車を提供していた例はなく、本件自動車は前記のような事情から東海タイムス社に貸与されたものであるから、これを目して被控訴会社の附属的商行為と解することはできない。

されば、被控訴会社が本件自動車を自己のため運行の用に供する者であることを前提とする控訴人らの請求は、すでにこの前提において理由がないから、その余の点を判断するまでもなく失当として棄却を免れない。

よつて、右と同趣旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、控訴費用について民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 井口源一郎 小沢博 三浦伊佐雄)

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